平成20年度 野球部名勝負!
H20 秋季栃木県大会決勝 文星芸大附属高校戦
吉田 峰人
平成20年度の秋季高校野球栃木県大会は、矢板中央高校は比較的良い組合せに恵まれ、初戦は黒羽高校に10対0の5回コールド、2回戦の今市工業高校戦も6対4で逆転勝ちをおさめた。ここまでは予定通り(といったら相手校に失礼かもしれないが)で、問題はここから先だ。私も正直「どうかなあ?」と思っていたが、9月23日に栃木市営球場で行われた3回戦のシード宇都宮南高校戦での中盤から終盤にかけてのしぶとい戦いぶりによってチームが変わり、チームが1つに結束し始めたように見えた。
2回裏の1死1、3塁のピンチでの次打者のセンター前に落ちようかという低いライナー性の当たりをセンター井上のここ一番のタイミングでのダイビングキャッチ、なおも2死1、3塁からの相手の仕掛けてきた重盗をキャッチャー吉永とショート菊池祐の巧い連係プレーで、ボールがキャッチャー→ショート→キャッチャーと渡り3塁走者を本塁で刺してピンチを切り抜けた。このプレーから連係の良さを感じ、4回裏に1点を先制されたが、粘りの守備で宇都宮南に何度も得点圏にランナーを進められるものの、矢板中央の各選手がここ一番での思い切りの良いのびのびとしたプレーで相手になかなか追加点を与えない。これで相手選手に「なんで点が取れそうなのに点が取れないのだろう」という段々不安な気持ちにさせ、じわりじわりと相手にとって嫌な雰囲気になってきたところに付け込み、矢板中央は7回表に2死1、2塁から細井のショートの頭上を越す左中間へのヒットで1対1の同点に追い付き、8回表に3点をもぎ取り4対1でシード宇都宮南を下した。
矢板中央は28日の準々決勝の真岡高校戦でも「相手を嫌な雰囲気にさせる場面」が初回に出た。初回1死2塁のピンチを矢板中央サイドが粘りの守備でしのぐと、その裏矢板中央は1死2塁から3番滝が打った打球は3塁線へのゴロ、しかし硬くなっていた真岡高校のサードがトンネルしてしまって矢板中央は労せずして1点を先制、このミスで真岡サイドを嫌な雰囲気にさせ、相手が崩れてきたところを逃さず一気に井上、石綿が真岡の投手陣に連続タイムリーを浴びせて2点を追加。序盤で3点のリードを奪い、相手のミスに付け込んで得点するしたたかなところを真岡サイドに見せつけた。この3点で気楽になった矢板中央は、3回裏には2死2、3塁から吉永のタイムリーで2点追加、5回裏には連続タイムリーとスクイズで3点を追加し、8対0の7回コールドで真岡に勝ってベスト4進出。宇都宮南のときと同様に真岡戦でみせたしぶとい粘りが、相手が硬くなったところを逃さずに相手のミスに乗じて確実に得点に結びつけるしたたかさも備えたのだ。
4日に行われたシード国学院栃木高校との準決勝も7対0と矢板中央のエース斉藤が2試合連続完封勝利、しかも国学院栃木のエースが途中から変化球に配球を変えてきても、矢板中央の各打者が変化球にも上手く対応して打ちまくり、6回裏に一挙5点をもぎ取っての快勝!
このしたたかな戦いぶりが、チームに勢いをつけて一気に2年連続2回目のノーシードからの関東大会出場まで上り詰めさせたのだ。野球の勢いは本当に怖いものだ。一度勢い付くと選手のみんなが実力以上のものを出せて、さらに相手のミスを逃さないしたたかさまで加わり相手に脅威を与えるから。しかもそれはなかなか消されないし、チームを1戦1戦戦うごとにチームを強く成長させるのだ。
決勝戦の文星芸大附属高校戦でもタフな試合になった。その決勝戦は10月5日日曜日の午前9時55分、矢板中央の先攻で試合開始。普通に行けば、圧倒的な戦力を誇る優勝候補筆頭の文星芸大附属高校に勝つのは厳しいところだが、ここでも矢板中央は自分たちの力をいかんなく発揮した。
その決勝戦は、ノーカットで試合の流れを書きます。
1回表、文星芸大の先発エース中山は上背こそはあまりないが、低目を丁寧に突いてきて、直球は130km半ばくらい。矢板中央は三者凡退に終わる。
1回裏の文星の攻撃、矢板中央の先発はエース斉藤がマウンドに上がる。斉藤は先頭打者にセンターに抜けそうないい当たりのゴロをショート菊地祐が上手くさばいた。これで斉藤は落ち着き、続く打者を三振、ライトフライに打ち取る。
2回表、1死から吉永が初球をきれいにレフト前ヒット。2死となり、次の7番小野寺が3塁線への2塁打で2死2、3塁。栗林が2ナッシングから選んで2死満塁。しかし、9番斎藤は三振でチャンスを逃す。
2回裏、先頭打者の4番薄井がライト前ヒット。次の5番手塚は四球で無死1、2塁。次の真壁の送りバントはピッチャー左への強い当たり。これを斎藤はボールを取って素早く3塁へ送球、2塁走者薄井を3塁でフォースアウトにして1死1、2塁とする。次の福田は3塁線へのゴロをこの日サードの栗林のライン際に寄って守っていた好判断で打球を捕り素早く3塁ベースを踏み、さらに1塁への素早い送球でダブルプレーに打ち取りピンチを脱した。この日も持ち前のしぶとい守備がチームにリズムを生み出し、このいい流れが3回表の攻撃につながった。
3回表、先頭の1番菊地祐がきれいにセンター前ヒット。石川の送りバントで1死2塁。次の3番石綿は2ストライクに追い込まれながらもしぶとくセンター前ヒット。1死1、3塁とチャンスが広がる。続く4番井上への初球、石綿が盗塁して1死2、3塁。この盗塁により1塁ベースが空いたことで井上に余裕ができ、これが効いて井上は1、2塁間を抜くライト前タイムリーで矢板中央が1点先制。続く5番吉永のときに井上が2塁への盗塁を決めて再び1死2、3塁とチャンスを広げた。吉永は左中間へのタイムリーヒットで石綿と井上が還りさらに2点追加。3対0とリードを広げる。続く須藤はセカンドゴロのゲッツーに終わるが、この回矢板中央が3点を先制した。この矢板中央の集中攻撃は見事で、この3点で「この試合をこれで流れをつかめる」と思った。逆にこの3点で劣勢に立った文星はなかなか突破口を見出せなくなった。
3回裏の文星は先頭打者が三振、次の打者は連続セカンドフライに倒れて三者凡退。
4回表の矢板中央は、小野寺がピッチャーゴロ、栗林はつまりながらもしぶとくレフト前へヒットを放つ。斉藤は送りバント失敗で2死1塁。菊地祐は左中間へライナーを放つが、レフト芹澤が上手く捕球した。
4回裏、先頭打者中村がレフト前。中村が盗塁を決めて無死2塁。次の3番荒井のライトライナーで1死3塁。4番薄井のサードへの高いバウンドのゴロで2死となるが1点返す。次の5番手塚のセンター前、6番真壁のセカンドへのヒットで2死から連打で1、2塁。次の福田の三遊間の深いゴロをショート菊地祐が上手く回り込みボールを捕ってすぐ3塁へのランニングスローで手塚を3塁フォースアウトとし、ピンチを脱した。矢板中央のこの決勝戦でのショート菊地祐といい、サードの栗林といい、ここ一番でのびのびと思い切りのいいプレーをしてこの日の決勝戦でも堅守が目立つ。
これだけ守りがいいと、先発の斎藤も投げやすいはずだ。この日の試合でも準々決勝と準決勝で連続完封した自信からか伸びのあるストレートや切れ味の良いスライダーで相手打線を翻弄していった。また。斎藤にのびのびと投球させているキャッチャー吉永のリードが冴えており、四角いストライクゾーンを上手く使って球を上手く散らし、相手打線に的を絞らせない巧みなリードが光った。
5回表、文星は中山から左腕の鈴木広にスイッチ。その替わりばなをとらえ、石川は追い込まれながらもきれいにレフト前。石綿の送りバントで1死2塁。井上のときに相手投手の暴投で1死3塁。井上は四球で1死1、3塁。吉永は三振に倒れるが、須藤は四球で2死満塁。小野寺は三振でチャンスを逃す。
5回裏、先頭打者圓岡を見逃し三振、鈴木広を空振り三振、芹澤を空振り三振で三者連続三振。
6回表、矢板中央は先頭打者の栗林は四球。齋藤の送りバントで1死2塁。菊地祐はストレートの四球で1死1、2塁。ここで文星の高橋監督はピッチャーを鈴木広から3人目の右腕鈴木康にスイッチしてきた。石川は初球良い当たりだったがピッチャー正面のダブルプレーに終わった。
6回裏、文星の攻撃は先頭打者中村をショートゴロ、荒井がセンター前で1死1塁。4番薄井のセカンド頭上を越すヒットで1死1、3塁のピンチ。5番手塚のときに1塁走者の盗塁で1死2、3塁。手塚は見逃し三振で2死2、3塁。眞壁の打球はセンターを襲うが、センター井上は好判断で予め後ろ寄りに守っており、上手い回り込みでセンターライナーに打ち取りピンチを脱した。7回表、先頭打者の石綿は四球、井上はセカンドゲッツーで2死無走者。吉永はファールで粘った後、四球で出塁。しかし6番須藤はセカンドゴロで無得点。
7回裏、矢板中央の樋下田監督は先発斉藤を替え、2番手の細井をマウンドに送る。先頭打者福田はレフト前ヒット。圓岡は巧みな変化球で送りバント失敗に打ち取る。鈴木康はカウントツースリーからのボール球を振るとセンターに抜けそうな当たり。しかしショート菊地祐が上手く回り込みこの打球を捕り素早く自分でベースを踏み、さらにファーストへ素早く送球して好判断好プレーでゲッツーに打ち取る。
8回表、先頭打者小野寺は3塁線への高く跳ねた深い当たりのゴロで内野安打。栗林の送りバントで1死2塁。細井はセカンドへのゴロでランナーを進め、2死3塁。1番菊地祐がライト前タイムリーで小野寺が還り、矢板中央は貴重な追加点。4対1とリードを3点差に広げる。続く2番石川のときに1塁走者の菊地祐は2塁へ盗塁を試みるが文星のキャッチャー薄井が矢のような送球で盗塁失敗。
8回裏、先頭の芹澤が四球、2番中村の送りバントがセカンド石川の1塁ベースカバーが遅れ無死1、2塁。3番荒井は浅いセンターフライで1死1、2塁。4番薄井はフライになったがライト線への面白い当たり。しかし、ライト小野寺は一瞬ボールを見失ったのか一歩目が僅かに遅れ、このボールを追い掛け賢明のダイビングを試みるが僅かに届かず、2塁打となり4対2と1点返されなおも1死2、3塁。続く5番手塚のセンター前でセンター井上は懸命のバックホーム、良いボールが吉永のミットに収まり吉永はタッチに行くが2塁ランナー薄井の回り込みが上手く、薄井は吉永のタッチをかわしながら左手一本でここしかないとばかりにホームベースの一角に触った。タイミング的にはクロスプレーになったが吉永のタッチが追いタッチとなり一瞬薄井のベースタッチの方が早いと判断し、球審は「セーフ」の判定を2度両手を広げてジャッジ。それだけ見応えあるプレーだったがこれで4対4の同点。しかし同点になっても矢板中央の選手の目はまだ輝いていた。文星は今大会の優勝候補筆頭、思い切って胸を借りていこうという気持ちが矢板中央の各選手には表れていた。矢板中央の樋下田監督はここで細井に替えて3番手鈴木をマウンドに送り、細井は悔しがったがその気持ちが、鈴木には伝わっていた。「おれが抑えてやる」と言わんばかりに気迫が感じられた。鈴木だけではなく、矢板中央の選手全員が「ここは絶対に抑えるぞ」と言わんばかりに守りの集中力を切らさなかった。鈴木は続く眞壁の四球で1死1、2塁となるが、続く福田のときに2塁ランナー手塚が一瞬飛び出したところを矢板中央のキャッチャー吉永は見逃さず、矢のような2塁送球で手塚を2塁タッチアウトにした。これで鈴木は落ち着きを取り戻し、福田は四球となり2死1、2塁となるが、続く8番圓岡に替わっての代打木村をセカンドフライに打ち取った。
9回表、矢板中央は2番石川はレフトフライ、石綿は三振、井上も三振。
9回裏、鈴木康をショートゴロ、芹澤をショートゴロ、中村をセンターフライに打ち取った。9回は両チーム共に三者凡退で、試合は4対4の同点のまま延長戦にもつれ込む接戦になった。ここまでがっぷり四つの試合が出来るなんてビックリだ。ここまでの試合になるとは一体誰が予想したであろうか。矢板中央の各選手のここまでの戦いぶりに観る者は驚かされてばかりだ。
10回表、吉永はセカンドフライ、6番須藤の代打菊地広は三振、7番小野寺の代打福田はセカンドゴロで三者凡退。どうも3番手の鈴木康をとらえられない。
すると10回裏、矢板中央の3番手の鈴木が文星打線につかまった。先頭打者3番荒井は1塁線を破る2塁打、4番薄井は快音を残してセンターを襲うがセンターライナー。続く5番は先ほど同点打を放っている手塚。この手塚が打席に立ったとき、私は「鈴木に対して文星の各打者のタイミングが合ってきたかな?」と思った。
そう思った瞬間…。
5番手塚は鈴木の初球を叩くとセンター前ヒット、2塁ランナー荒井はホームを突き、センター井上からボールを中継した石川は懸命のバックホームでキャッチャーの吉永へ良いボールを返球したが吉永のタッチが一瞬間に合わず、荒井が左手一本でホームベースに触れるのが吉永のタッチより一瞬早く球審は「セーフ」の判定…矢板中央は文星相手に大善戦及ばず4対5のサヨナラ負けで試合終了、3時間5分の延長10回に及ぶ大熱戦は幕を閉じた。その瞬間、昨年度に続いてまたしても矢板中央の悲願の初優勝は潰えてしまった…。
しかし、前評判では圧倒的に戦力が揃っている文星芸大附属高校が優勝候補筆頭と言われていた中で、それを相手に最後の最後まで選手たちが諦めずに喰らい付く粘りを見せた矢板中央の各選手に、試合終了後の両校挨拶では両スタンドからは健闘を称え合った大きな拍手がしばらく鳴り止まなかった。